クライアントが元請けに要望を伝える。元請けは、それを解釈して、外注先に依頼する。外注先が、さらにその先の協力者に、作業を割り振る。
この一連の流れの中で、情報は一度も、そのままの形では下に届かない。誰かが受け取り、誰かの言葉で言い換えて、次に渡す。その言い換えのたびに、細部が少しずつ失われる。
いちばん下にいる人が受け取るのは、最も多く言い換えられた情報だ。皮肉なことに、実際に手を動かす人ほど、元の意図から遠い情報しか持っていない。
クライアントが「もう少し高級感を出してほしい」と言った一言は、元請けの手で「上品なトーンに」となり、外注先の手で「落ち着いた色味で」となり、さらにその先では「地味目でお願いします」に変わっていることがある。どの段階の言い換えも、間違ってはいない。それぞれの担当者は、自分なりに正しく要約したつもりでいる。それでも、三段を経た結果は、最初の意図とは、もう別のものになっている。
この歪みは、誰か一人の怠慢によるものではない。段階が増えるほど、統計的に情報が劣化していく、構造の問題だ。
歪みが起きるのは、言葉の圧縮だけが原因ではない。それぞれの段階には、それぞれの利害もある。元請けは、クライアントの細かい要求をそのまま外注先に伝えると、こちらの管理が甘く見えると感じることがある。だから、少し整理した形で伝える。外注先も、さらに下に渡すときに、同じことをする。
情報が薄まるだけでなく、伝える側の都合が、少しずつ混ざっていく。いちばん下にいる人が受け取るころには、元の要望と、途中の都合が混ざり合った、別の指示になっている。
歪みが表面化するのは、たいてい納品の段階だ。「思っていたのと違う」というクライアントの反応が、元請けに返る。元請けは外注先に確認し、外注先はさらに下に確認する。この確認作業も、また同じ経路を逆向きに辿ることになり、時間がかかる。
いちばん下にいる人にとって、これは理不尽に感じられる場面だ。渡された指示どおりに作ったのに、責任だけが下に降りてくることがある。歪みがどの段階で生まれたかは、後から検証しにくい。誰も嘘をついていないのに、結果だけが違っている。
対処法は、伝言の回数を減らすことに尽きる。理想を言えば、クライアントの本来の意図を、末端まで直接届けられる状態を作ることだ。
現実には、発注の階層を完全になくすことは難しい。だから次善の策は、「言い換えられる前の一次情報」を、どこかに残しておくことになる。クライアントの元の言葉、最初の要望のメモ、参考にした資料。これらを、途中の担当者の解釈とは別に、末端の担当者もアクセスできる場所に置いておく。
そうすれば、末端の担当者は、伝言だけに頼らず、元の意図を自分で確認できる。歪みが積み重なる前の情報に、直接触れられる。
発注の階層が深い仕事ほど、途中の担当者は、自分が伝言ゲームの一部になっていることに気づきにくい。自分の役割は「指示を伝えること」だと思っているが、実際には「情報を少しずつ変えながら渡すこと」をしている。
この自覚を持つだけで、対応は変わる。自分の解釈をそのまま伝える前に、「これは要約であって、元の言葉ではない」と一言添える。可能なら、元の資料へのリンクも一緒に渡す。この小さな一手間が、次の段階での歪みを、わずかでも減らす。
Paqutでは、クライアントの要望や参考資料を、案件のグループに直接残しておけます。外注の階層が深いプロジェクトでも、末端の担当者が、元の情報に自分でアクセスできる状態を作れます。
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